資料室 No.002-1
8000系の「機器」 その1 補助電源装置(MG)

▲8577F 海側
8000系は712両ある大所帯だけに、補助電源装置(MG)やコンプレッサー(CP)に多々種類があります。
これまでこのサイトでは「さらっと」しか扱っていませんでしたが、いろいろとデータを見直すと、いろいろと編成単位で異なるではないか…と、思い立ち
今回改めてこの2つの機器について取り上げてみようと思います。
※今回は床下の写真が多々あるため、他のページと異なり画像サイズを大きめにしてあります。
補助電源装置(MG)と冷房化
8000系の海側のカバー、左がCLG-703、右がCLG-350Dのもの
(見やすくするため天地を反転させています)
MGの模式図。
図中の青の電動機と赤の発電機が1つの筐体に収められています
 MGはMotor-Generator(電動発電機)の略で、車内の電灯や冷房などのサービス電源用に必要となる交流電圧を発生させるためのものです。
8000系の製造当時は半導体による電動機の速度制御技術がなく、電動機を2つ繋いでMGとして使用する手法が多く用いられていました。
MGは架線からの直流1500Vで電動機を回し、軸で繋いだ交流発電機で交流220Vを出力します。
(その後の技術開発でインバータを用いた補助電源装置(SIV)が登場し、東武鉄道では10030系から採用されています)

 新製当初、8000系にはHG-533IrBという出力9kVAの小型のMGが搭載されていましたが、昭和47年製造の5次車(8156F・8563F)から冷房装置が設置されることとなり、それに合わせて非冷房だった1〜4次車も昭和48年から順次冷房化改造がなされることになりました。この時に搭載されたのがCLG-350D系の直流整流子電動機を用いたDCMGです。冷房化に際し、屋根のスペースの関係からパンタグラフが菱形のPT42から下枠交差形のPT48に交換されています。
冷房化に際しては西工内の津覇車輌で行われましたが、一部の車両は手が足らずアルナ工機に回送の上改造が施工されています。

 その後、昭和57年度以降に冷房改造された編成と、同時期に製造された12次車(基本編成の81107Fと増結編成の8571F)以降の編成については、CLG-703系の無整流子直流電動機を用いたブラシレスMGが搭載されています。

 一般的な直流電動機には、「ブラシ」と呼ばれる、コイルの電流を一定方向にする役割をもつカーボン製の部品が必須であり、きちんと研磨しないとフラッシオーバ等電動機が破損してしまうなど、この部分のメンテナンスが非常に手間がかかるものでした。
先に述べたCLG-350D/355Dはこのブラシがある電動機を用いていますが、ブラシレスMGではブラシ部分を半導体(サイリスタ)に置き換えた「無整流子電動機」を用いています。

 しかし、サイリスタは高速でONとOFFを特定の周波数で繰り返す(スイッチングする)ことで速度制御を行うため、地上側の装置に対してこの周波数で誤動作しないよう、誘導障害対策が必要となります。補助電源装置は運転台機器にも電源を供給するため、このタイプのMGを持つ車両は、秩父線内で踏切の誤作動を引き起こす可能性があり、このため回送などで秩父線乗入れる時は専用の牽引車として8505F、8506F、8510FのDCMG搭載編成を連結する形となっています。

どちらのMGもモハ8300(1C8M車)には容量が140kVAのものが、サハ8700、クハ8600(1C4M車)には容量75kVAのものがそれぞれ1基ずつ設置されています。
8000系に搭載されているMGについて
車輌の向きを表すため、ここでは海側、山側表記を用います。浅草、池袋を向いた時に進行方向右側が山側、左側が海側として説明を進めます。
CLG-350D/355D(DCMG)
CLG-350D/355D (DCMG)は、11次車(基本編成の81106Fと増結編成の8570F)までの編成に搭載されています。

このタイプのMGは、直流1500Vで直流電動機を回転させ、同軸の交流発電機を回転させて交流電源を得るものです。
140kVA(1C8M用)がCLG350D、75kVA(1C4M用)がCLG-355Dとなっています。筐体はどちらも同様ですが、出力が異なります。

基本的に編成内で異種のMGを搭載しておらず、6連の場合1C8M車ののMGがCLG-350Dであれば、1C4M車のMGはCLG-355Dとなっています。8連についてもモハ8300(偶)と(奇)で同様のMGが搭載されています。
(ただし、七光台所属の運転台撤去編成はこの限りではなく、4連と2連でMGが異なる事例が生じています)
また、搭載編成については基本、増結編成とも昭和57年度以降に冷房化された例外編成があり、CLG-704/CLG-703を搭載している編成があります(後述します)

▲海側(モハ8344・1C8M・CLG-350D) 

▲海側(クハ8605・1C4M・CLG-355D)
1C8M車(CLG-350D)の海側の車体中央、車番下に設置されているのがMGです。MG右の機器がAVR(自動電圧調整器)、その更に右隣の機器がMG起動用の開閉器です。この右隣以降の機器は(応荷重装置、CP、空気溜)は今回は説明はまたの機会に…。

一方、1C4M車ではTc車で運転用機器や1C8M車のTcに搭載している機器を配置している都合上、1C8M車でMG右にあったAVR(自動電圧調整器)がMG左側に変更、更にMG起動用の開閉器の脇に12Vの蓄電池があるなど、若干仕様が異なります。

▲山側(モハ8308・1C8M・CLG-350D)

▲山側(サハ8792・1C4M・CLG-355D)
1C8M車の山側では、車体左側にARB(ブレーカー)、その隣に変成器とMGの本体のブロワがあります。
この右隣以降の機器は(応荷重装置、CP、空気溜)は今回は説明は省略します。
1C4M車は1C8M車と機器配置に大きな差はありません。(画像では右端の空気溜がトリミングで切れています、ご注意ください)
MG本体を撮影した画像です。画像右側が海側、左側が山側となります。
山側には通風用のファンに繋がるダクト部分が大きく口を開けています。

CLG-703/704(ブラシレスMG)

▲海側(モハ83115・1C8M・CLG-704)

▲海側(クハ8671・1C4M・CLG-703)
1C8M車の海側の車体中央、車番下に設置されているのがMGです。MG右の機器が無整流子直流電動機のブラシの役割をするサイリスタ装置、
その更に右隣の機器がMG起動用の開閉器です。(ARBがどっかに居ると思うのですが…調査中)
1C4M車ではサイリスタ装置はMG右にあるものの、同装置右に12V蓄電池があるため、MG起動用の開閉器が左側にあります。

▲山側(モハ83120・1C8M・CLG-704)

▲山側(クハ8625・1C4M・CLG-703)
1C8M車の山側では、車体左側にARB(ブレーカー)、その隣に変成器があります。MG抵抗器とMG本体の間に網状の箱がありますが、特に名称等が記載されていません。想像ですがサイリスタのノイズを軽減するためのフィルタ等が入っているのではないかと思いますが、よくわかりません(汗
CLG-350D同様、この右隣以降の機器は(応荷重装置、CP、空気溜)は今回は説明は省略します。
1C4M車ではフィルタ?装置の右横に機器がいくつか搭載されています。
MG本体を撮影した画像です。画像右側が山側、左側が海側となります。
山側には通風用のファンに繋がるダクト部分が大きく口を開けています。

【1〜11次車のブラシレスMGの搭載編成】
12次車以降の編成以外でブラシレスMGを搭載している編成は以下の編成です。

【CLG-704搭載編成(1C8M)】
製造次 編成番号 両数 配置 メーカー 製造年 冷房改造 冷改施工 修繕年次 修繕
2
(2)
8148F
(8548F)
6
(2増結)

ナニワ工機
(日本車輌)
昭和44年
(昭和44年)
昭和57年9月
(昭和58年)
アルナ工機
(津覇車輌)
平成6年
(6連化含)
B
2 8149F 4 ナニワ工機 昭和44年 昭和57年 津覇車輌 平成8年 B
2
(2)
8151F
(8551F)
6
(2増結)
ナニワ工機
(日本車輌)
昭和44年
(昭和44年)
昭和57年12月
(昭和58年)
アルナ工機
(津覇車輌)
平成6年
(6連化含)
B
3
(2)
8154F
(8554F)
6
(2増結)
ナニワ工機
(日本車輌)
昭和47年
(昭和44年)
昭和58年
(昭和58年)
アルナ工機
(アルナ工機)
平成7年
(6連化含)
B
(※注)8148F、8151F、8154Fとも平成6年、または平成7年にそれぞれ下2桁が同数の2連を組み込み6連化されています。
この2連も冷房改造されたのが昭和57年以降であるため、1C4M用のCLG-703が設置されています。

【CLG-703搭載編成(1C4M)】
製造次 編成番号 両数 配置 メーカー 製造年 冷房改造 冷改施工 修繕年次 修繕
1 8503F 2 日本車輌 昭和40年 昭和57年5月 津覇車輌 昭和63年 B
1 8512F 2 日本車輌 昭和40年 昭和58年 津覇車輌 平成3年 B
1 8514F 2 日本車輌 昭和40年 昭和58年 津覇車輌 平成4年 B
1 8524F 2 富士重工 昭和41年 昭和57年4月 津覇車輌 平成5年 B
1 8525F 2 富士重工 昭和41年 昭和57年9月 津覇車輌 平成5年 B
1 8526F 2 日本車輌 昭和41年 昭和58年 津覇車輌 平成5年 B
1 8527F 2 日本車輌 昭和41年 昭和58年 津覇車輌 平成2年 B
2 8530F 2 日本車輌 昭和42年 昭和57年12月 津覇車輌 平成5年 B
2 8531F 2 日本車輌 昭和42年 昭和57年11月 津覇車輌 平成4年 B
2 8532F 2(6) 日本車輌 昭和42年 昭和57年8月 津覇車輌 平成5年 B固
2 8533F 2(6) 日本車輌 昭和42年 昭和57年8月 津覇車輌 平成5年 B固
2 8534F 2 日本車輌 昭和42年 昭和58年 津覇車輌 平成5年 B
2 8535F 2 富士重工 昭和42年 昭和57年6月 津覇車輌 平成5年 B
2 8536F 2 富士重工 昭和42年 昭和59年 津覇車輌 平成5年 B
2 8537F 2 富士重工 昭和42年 昭和58年 津覇車輌 平成5年 B
2 8538F 2 富士重工 昭和42年 昭和57年8月 津覇車輌 平成7年 B
2 8539F 2 日本車輌 昭和42年 昭和58年 津覇車輌 平成7年 B
2 8541F 2 日本車輌 昭和43年 昭和57年7月 津覇車輌 平成6年 B
2 8542F 2(6) 日本車輌 昭和43年 昭和57年7月 津覇車輌 平成6年 B固
2 8543F 2 富士重工 昭和43年 昭和57年10月 津覇車輌 平成3年 B
2 8544F 2 富士重工 昭和43年 昭和57年12月 津覇車輌 平成6年 B
2 8547F 2 ナニワ工機 昭和43年 昭和58年 津覇車輌 平成7年 B
2 8549F 2 日本車輌 昭和44年 昭和57年9月 津覇車輌 平成8年 B
2 8552F 2 日本車輌 昭和44年 昭和58年 津覇車輌 平成10年 C
2 8555F 2 富士重工 昭和44年 昭和58年 津覇車輌 平成8年 B
2 8558F 2 富士重工 昭和44年 昭和58年 津覇車輌 平成11年 C
3 8559F 2 ナニワ工機 昭和45年 昭和58年 津覇車輌 平成12年 C
3 8562F 2 ナニワ工機 昭和45年 昭和58年 津覇車輌 平成13年 D
(※注)8532Fは現在8133Fと、8533Fは8132Fと、8542Fは8153Fは運転台を撤去の上6連化されています。
この編成については基本編成はCLG-350Dが搭載されており、「固定編成内で」2種類のMGが混在していることとなります。

昭和57年冷房改造車の「怪」?
実は、上の表の冷房改造の時期で、昭和57年の車輌のみ年月が付いているのにお気づきになったでしょうか?
今回の特集を組むにあたって、手元に写真がある編成と資料を照らし合わせていく作業をしたのですが、8135F、8142F、8510Fの3編成については
資料(下記参考文献)には「CLG-703/704」が搭載されているのにも関わらず、実車にはCLG-350D/355Dが搭載されていたのです。

どうも時期を照らし合わせてみると、いずれも昭和57年の1〜4月に冷房改造した編成が該当しているようです。(ブラシレスMGとなったのが5月以降の改造車)
しかし、同様のMGを搭載する11次車、12次車の製造時期をみると関連性も無さそうです。昭和57年4月竣工ということは恐らく3月に工事をしていたと思われますので、「昭和57年度」に冷房改造に着手した車両がブラシレスMGに変更された、と見るのが妥当なようです。

【昭和57年に冷房改造/CLG-350D・355Dの搭載編成】
製造次 編成番号 両数 配置 メーカー 製造年 冷房改造 冷改施工 修繕年次 修繕
2 8135F 4 日本車輌 昭和42年 昭和57年4月 アルナ工機 平成2年 B
2 8142F 4 ナニワ工機 昭和43年 昭和57年1月 津覇車輌 平成6年 B
1 8510F 2 日本車輌 昭和40年 昭和57年2月 津覇車輌 平成2年 B


▲海側(モハ8342・1C8M・CLG-350D)

▲山側(クハ8610・1C4M・CLG-355)
8000系の搭載MG早見表
製造年次
(搭載時期)
基本編成 MG 増結編成 MG
1次
(改造)
8101F-8127F DCMG 8501F-8527F DCMG
2次
(改造)
8128F-8151F DCMG 8528F-8558F DCMG
3次
(改造)
8152F-8155F DCMG 8559F-8562F DCMG
4次
(改造)
8701-8714 DCMG 製造なし
8801-8814
5次
(新製)
8156F-8158F DCMG 8563F DCMG
6次
(新製)
8159F-8163F DCMG 製造なし
7次
(新製)
8164F-8166F DCMG 8564F-8568F DCMG
8次
(新製)
8167F-8172F DCMG 8569F・8570F DCMG
9次
(新製)
8173F-8181F DCMG 製造なし
10次
(新製)
8183F-8191F DCMG
8193F-81101F DCMG
11次
(新製)
81103F-81105F・8192F DCMG
12次
(新製)
81107F-81110F BLMG 8571F-8573F BLMG
13次
(新製)
81111F-81120F BLMG 8574F-8580F BLMG

※ただし、1次〜4次車の改造車の中で上記のBLMGを搭載した編成は除く
各MGの定格値
CLG-350D/355D(DCMG) 定格
MG名称 交/直 電圧 電流 入出力 その他
CLG-350D
(1C8M)
入力
(直流側)
1500V 100A 150kW
  
出力
(交流側)
220V 367A 140kVA
60Hz・力率0.85
CLG-355D
(1C4M)
入力
(直流側)
1500V 100A 150kW
 
出力
(交流側)
220V 196A 75kVA
60Hz・力率0.85
CLG-703/704(ブラシレスMG) 定格
MG名称 交/直 電圧 電流 入出力 その他
CLG-704
(1C8M)
入力
(直流側)
1500V 100A 150kW
  
出力
(交流側)
220V 368A 140kVA
60Hz・力率0.85
CLG-703
(1C4M)
入力
(直流側)
1500V 100A 150kW
 
出力
(交流側)
220V 197A 75kVA
60Hz・力率0.85
HG-533IrB(非冷房時代のDCMG) 主要諸元
MG名称 交/直 電圧 電流 入出力 その他
HG-533IrB 入力
(直流側)
1500V 8.7A 13kW
  
出力
(交流側)
220V 20.5A 9kVA
60Hz
(編集後記)
…こんな感じでハイパー?マニアックな特集を久々組んでみました。
そもそもは車輌のデータ表を作る上で、MGを見分ける時に海側だけでなく山側から見分けができれば…と思い調べ始めてみたのがすべての始まりでした。

以前から床下に特化した資料を作りたい、と考えており、かなり凝って作ってみました。一部推測なども含まれる部分があったり、かなり電気の専門用語が書いてあって?な部分もあるかもしれませんが、検索をかければ簡単に出てくる用語なので敢えて使わせていただきました。

一応、これまで撮影してきた写真と見比べて8000系全編成のMGを確認したつもりですが、もしかしたらリスト化する際に間違えている可能性あるかもしれないので、この編成はこの機器じゃない!といったツッコミもお待ちしております^^
(さて、私はこれから模型のMGを修正してきます。。。全部CLG-703系で作ってしまった。。。)

次回は…同じ8000系でバリエーションが多い機器、
コンプレッサーについて扱う予定です。
いつになるやら…首を長くしてお待ちください。

参考文献:
電気車研究会刊 鉄道ピクトリアル No.647 東武鉄道
交友社刊 鉄道ファン Vol.38-450 1988年10月号 などなど。
*おことわり*
今回の特集で用いた写真に関し、すべて鉄道敷地外にて撮影しております。
今回の記事に関し、東武鉄道や現場機関に一切関係ありません。現場機関への問い合わせなどはご遠慮ください
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